
『赤松之城水責之図(部分)』歌川国芳(一勇齋国芳)作
所蔵:東京都立中央図書館(デジタルアーカイブ)
この浮世絵は、豊臣秀吉が仕掛けた大胆な「水攻め」を描いた作品です。
湿地帯に囲まれた備中高松城を、わずか十二日で水没させた異例の作戦。
その発想力と実行力が、ダイナミックな構図の中で脈打っています。
秀吉の三つの城攻め──三木、鳥取、備中高松。
これらを貫いたのは、「目に見えない力」が勝敗を決める という原則でした。
派手な斬り合いではなく、
静かに戦況を支える“裏側の仕組み”。
本エピソードでは、その“見えない武器”に光を当て、現代リーダーの意思決定にも通じる原理をひも解いていきます。
歴史から学ぶリーダーシップ戦略|秀吉の兵站力と戦略的思考──逆境を突破するリーダーの原則
はじめに─見えない力が勝利を支える
戦いの行方は、剣の鋭さだけで決まるものではありません。
秀吉がのし上がった最大の理由も、意外なところにありました。
それが 「兵站力(ロジスティクス)」──
物資、人・情報の通り道。
資源を最適に動かす、戦いの“見えない土台”です。
どれだけ早く補給をつなぎ、
どれだけ無駄なく戦線を維持し、
どれだけ環境を味方につけられるか。
秀吉はこの“見えない部分”に誰よりも精通し、
やがて数十万の兵を統率する指揮官へと成長していきました。
量子の庭の言葉を借りれば、
目に見える波よりも、その下で揺れている“基底の流れ”こそが、
全体の流れを決めていくようなものです。

『本朝智仁英勇鑑 織田上総介信長(部分)』月岡芳年作(1878)
所蔵:東京都立中央図書館(デジタルアーカイブ)
荒木村重の度胸を試した「まんじゅうの逸話」を描いた作品です。
村重の視点で構成されたこの構図は、信長の評価眼と胆力を浮かび上がらせます。
秀吉の兵站思想は、この信長の「人を見る力」にも少なからず影響を受けていました。
🪶 補足視点:初期整備の判断
スタートアップの初期段階では、目に見える成果やスピードに意識が向きがちです。
けれど秀吉は、早い段階で「裏側を整えることこそ、最大の武器になる」と直感していました。
派手さのない兵站整備。
けれどもその静かな積み重ねこそが、のちに三木・鳥取・備中高松という
“難攻不落の三連戦”を勝ち抜く土台になります。
図:「兵站力」は、”見えない力“ で組織を動かすエンジンだった
── 静かに勝敗を左右する、戦略の革新

成果は、表に見える戦術だけでは生まれません。
見えない構造を整え続けた者だけが、
組織を動かし、未来をつくる。
三木で“粘り”、鳥取で“心理”、そして次の備中高松では“革新”が試されることになります。
三木城攻め:「焦らず進める」という逆説の戦略
三木城攻めで秀吉が示したのは、
「焦らないことこそ、最大の戦略である」
という逆説でした。
三木城包囲戦は、実に2年にも及ぶ兵糧攻め。
別所長治が信長に反旗を翻しても、秀吉は動揺せず、包囲を 淡々と、しかし確実に 継続します。
支城を一つずつ落とし、補給路を丁寧に断ち切る。
派手さはありません。
けれどその “勝ち急がない姿勢” こそが、最終的な勝利を引き寄せたのです。
この姿勢は、表の騒がしさとはまったく別の世界にあります。
深い湖の底で、ゆっくりと流れ続ける水のように。
🪶 補足視点:焦らず備える勇気
秀吉が三木城攻めで見せた粘り強さには、きわめて明確な哲学がありました。
それは、
短期の成果より、長期の勝利を優先する
という、揺るぎない姿勢です。
2年間の兵糧戦をやり切れた背景には、
・「勝ち急がない」
・「準備こそが勝敗を決める」
という、秀吉の静かな確信がありました。
この粘り強さは、現代ビジネスにおける
“持続的な勝利のつくり方”そのもの です。
焦りの波に飲まれず、
ゆっくりと地盤を固めるという判断こそが、
のちの巨大プロジェクトを支える“基底の波” になりました。
🧭 教訓
小さな改善と準備の積み重ねが、
未来の大きな勝利につながっていく。
秀吉の姿勢は、シンプルでありながら、
リーダーシップの本質そのものを突いています。
📌 現代への応用:長期視点に基づく準備と粘り強さ
長期的な勝利をつかむためには、
目に見える成果よりも、次のような“地味な基盤づくり”が欠かせません。
・競争市場で勝つための丹念な市場調査
・戦略に基づくリソース配分
・組織の勝敗を左右する“基礎体力”の構築
これらはすべて、三木城攻めの「焦らず進める戦略」と同じ構造を持っています。

備えは力。
備えが未来をつくる。
戦国の地で静かに積み上げられた秀吉の判断は、
いまの私たちの仕事にも、同じ波紋を投げかけています。
鳥取城攻め──心理を揺さぶり、合理性で勝つ

『鳥取城の戦い』
出典:日本の旅侍/たけだかおる
飢え、狂気、絶望──。
鳥取城攻めが「心を折る戦略」と呼ばれるのは、
秀吉が “相手の内面そのもの”を戦場として扱ったから です。
秀吉の戦い方は、
剣で斬り伏せるのではなく、
心理の支柱を静かに崩すことにありました。
秀吉はまず、周辺の農民から米を高値で買い上げます。
さらに、
「織田家に逆らう者は命の保証がない」
という噂を巧みに流し、住民の不安を煽りました。
逃げ場を求めて住民は城内に流入し、
その結果、備蓄は急速に枯渇。
戦う前から、城は内側から崩れはじめていたのです。
そして わずか7か月で、鳥取城は落城 しました。
派手な戦術ではなく、
「心を折る」という静かな操作が勝敗を決めた──。
それが、鳥取城攻めの本質でした。
🪶 補足視点:心理戦の効果最大化
鳥取城攻めは、
兵力差や地形の優劣を使った戦いではありませんでした。
秀吉が用いたのは、
“心理という見えない戦場”をどこまで正確に読み解けるか
という戦いでした。
・相手の恐怖は、どこで増幅するのか
・判断力は、どの瞬間に奪われるのか
・最小コストで最大の成果を生むには、どこを押すべきか
この 徹底した合理性 こそが、秀吉の戦術の鋭さを際立たせています。
量子の庭の比喩でいえば、
これは「外側の現象」を動かすのではなく、
内側の“状態”を書き換えることで、世界線そのものを変える戦略
だったと言えるでしょう。

見えない戦場は、心の中にあった

鳥取城攻めを成功させた「心理的包囲」の構造を示すイメージ図
── 物理的包囲より先に、判断と希望が断たれていった過程
出典:郷土の歴史と湖上巡りHP(2021) ※一部編集
- 食糧供給路を断つ
- 住民流入で備蓄を枯渇させる
- 逃げ場のない閉塞感を作る
この一連の流れは、
単なる攻城戦ではなく、
見えない“心理の包囲網”を張り巡らせるプロセス でした。
物理的な包囲より先に、
心の包囲が崩れる。
その現実を、秀吉は誰よりも深く理解していたのです。
🧭 教訓
📌 リーダーは、チームや相手の 「心理状態」「不安の位置」「判断の癖」 を正しく理解し、
そこに適切に働きかけることで、
最小コストで最大の成果を生むことができる。
📌 とくに 「心理的安全性」や「不安の取り扱い方」 は、
組織の潜在能力を引き出すうえで決定的な要素になる。
“心の状態”を読む力は、
戦場でも組織でも、勝敗を大きく左右する。
鳥取城攻めは、その象徴的な事例でした。
備中高松城攻め:革新とスピードで未来を切り拓く
湿地帯に囲まれた備中高松城は、
通常の攻め方では手が出せない “難攻不落” の城でした。
ここで豊臣秀吉が選んだ戦法は、
状況そのものをひっくり返す 「水攻め」という方法。
川をせき止め、
城そのものを湖に沈めてしまう──。
それは武将としての経験値だけではなく、
環境そのものを設計し直す発想力 から生まれた戦略でした。

『豊臣勲功記 高松城水攻之図』月岡芳年作(1867)
所蔵:立命館ARC
出典:ARC浮世絵ポータルデータベース
備中高松城を包み込む巨大な水域と、堤防の上で陣を指揮する秀吉。
武力ではなく、地形と時間を味方につける――
法螺貝を吹き、堤の上から水に沈む城を見据える秀吉。
この一枚は、戦場を「支配する環境」そのものに変えた
秀吉の発想と決断の瞬間を描いている。
堤防は高さ8m、長さ4km。
そして何より驚くべきは、それを「わずか12日間」で築き上げたこと です。
現代の巨大インフラ工事ですら困難な規模を、秀吉は、
着想 → 即断 → 実行
という流れで、一気に現実へと押し出しました。
この「ためらいのなさ」こそが、
勝敗を決定づけた 分岐点 だったのです。
量子の庭でたとえるなら、
揺れ続ける波を引き延ばすのではなく、
一瞬で“観測する未来”を選び取る決断。
秀吉はこのとき、
未来の一つを “選び切った” と言ってよいでしょう。

原画:『風神雷神図屏風』俵屋宗達作
出典:Wikimedia Commons/CC BY-SA
(原画を一部改変し、AI生成イラストと合成)
※本記事では、歴史的理解を深めるための補助として、
伝統絵画とあわせて、現代の視点で生成したAIイラストを用いています。
時代の異なる表現を並べることで、時間の重なりを感じてもらえたらと思います。
図:【ビジュアル年表】三大城攻めの比較
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進化する戦略──粘り(三木)、心理(鳥取)、そして革新(備中)。秀吉の判断は、静かに、しかし確実に段階を上げていきました。
🪶 補足視点:制約を味方につける
備中高松城の水攻めは、
ただ奇抜だったわけではありません。
秀吉が同時に扱っていたのは、
・迫る時間
・地形という与件
・限られた人員と物資
これらすべてを組み合わせ、
最小のコストで最大のインパクトを生む「合理的な革新」 でした。
時間、地形、人材。
制約の多さこそが、発想を研ぎ澄ませる条件 になったのです。
🧭 教訓
- 従来の方法に囚われず、構造そのものを疑う
- 新しい発想に踏み込み、ためらわず実行に移す
- 制約を「障害」ではなく「設計条件」として使う
秀吉が備中高松で示したのは、
変化の渦中に突破口を生むための“革新の筋力” でした。
- 構造を再設計する勇気
- 速さで勝負する判断力
- 制約を逆手に取る柔軟性
これは、変化の激しい現代においても
“変革を起こすリーダー”に不可欠な資質 です。
備中高松の水攻めは、
「準備・心理・革新」が一つに結晶した、
秀吉というリーダーの“完成形”だったのかもしれません。
秀吉に学ぶ「戦略的5原則」
三つの城攻めを並べてみると、
派手な戦いよりも “静かな判断” が浮かび上がってきます。
- 心理を読み取る洞察力
- 見えないところを整える基盤づくり
- 現場で磨いた改善の積み重ね
- 犠牲を抑えるための現実的な判断
- 常識に縛られない柔軟さと革新性
その行動から浮かび上がるのが、
現代のリーダーにも通じる 5つの戦略原則 です。
図:秀吉の戦略的5原則

① 心理的洞察力
相手やチームの感情を読み取り、状況に応じて最適に動かす力。
鳥取城攻めでは、
心理の土台を崩すことで最小のコストで最大の成果を得る
という合理性を発揮しました。
見えない心の動きを読むことが、戦略の根底を形づくっていたのです。
② 見えない基盤づくり
目に見えない基盤を整え、全体を支える力。
三木城攻めでの粘り強い兵站構築は、
長期戦を支える「静かなインフラづくり」 でした。
成果の裏側で動く“裏のエンジン”こそが、組織の未来を左右します。
③ 現場感覚と改善の積み重ね
現場で得た知識を戦略に活かし、常に改善を重ねていく姿勢。
秀吉は自ら現場を歩き、
小さな改善を積み上げながら
「勝ち方の型」を磨き続けました。
それは一回の勝利ではなく、勝ち続けるための思考 でした。
④ 犠牲を抑える合理的思考
不要な消耗を避け、必要最小限の資源で目的を達成する。
無理な突撃ではなく、
状況に応じて 「最も失われない道」 を選ぶ。
秀吉の判断には、
命と組織を守るための静かな合理性
が常に宿っています。
⑤ 柔軟性と革新性
従来の枠を超え、新しい発想で未来を切り拓く力。
備中高松の「水攻め」は、
環境を読み替え、発想を反転させることで生まれた
革新とスピードの象徴 でした。
迷いの波形を引き延ばさず、
一瞬で “次の世界線”を選ぶような判断力 です。
これらの5つの原則は、
変化の激しい現代を生き抜く
“戦略的リーダーシップの基底波” に重なります。
そしてその波は、
戦国の戦場だけでなく、
いま私たちが立つ現場の足元でも、確かに揺れているのです。
図【現代ビジネス対比】 戦国時代 vs スタートアップ
時代を超えて共通する「攻めの型」とは?

🪶 補足視点:異質な判断が開く未来
秀吉の成功を一言で表すなら、
それは 「文脈に応じて常識を外す力」 でした。
枠に収まるのではなく、
状況を読み、必要に応じて
“異質な選択肢”を静かに選び取る。
その積み重ねが、
彼を天下人へと押し上げる原動力となったのです。
量子の庭でいえば──
固定化された波形から一歩ずれた“別解”を選び続ける勇気。
その異質さこそが、未来をひらく鍵でした。
異質さが導いた未来──“挑戦と進化”のヒント
秀吉の強さは、派手な武勇ではありませんでした。
「文脈に応じて常識を外す力」
「見えない部分を整え続ける意志」
そこにこそ、本質がありました。
裏側の基盤を整えること。
心理を読み解く洞察力。
そして、前例を覆す発想と実行。
そのすべてが、現代を生きる私たちにも
静かなヒントを投げかけています。
そして──
見えない部分に力を注ぐ覚悟は、
ほんとうは 誰の中にも、まだ気づかれていないかたちで宿っています。
量子の庭の言葉でいえば、
“まだ観測されていない波” が、誰の中にもそっと広がっています。
どの波を選び、
どの未来を観測するのか。
その選択は、日常のとても小さな場面から始まります。

秀吉の物語は、
彼の時代だけに閉じたものではありません。
あなたがいま立っている場所。
迷いながら選ぼうとしている分岐点。
そのすぐそばで、
歴史は、
静かなランタンのように、未来への道筋を照らし続けています。
次の物語では、
秀吉のスケール拡大の思考と、家康との関係に宿る
“組織を育てる原則” を見ていきます。






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